松野井奏の日記

物語や感想。日記など。

【歌集】棘 更新

【歌集】棘 #アルファポリス https://www.alphapolis.co.jp/novel/977882250/678898246

 

感想をいただき、とっても嬉しかったです!

歌会のお誘いをいただきましたが、短歌はさっぱりわからないので、まだ迷い中です…

ブログ更新したいなーって気持ちはあるのに、なかなか開くのが億劫で良くないですね。

映画の感想も溜まってるので少しずつ更新していきます!!

【歌集】棘

アルファポリス https://www.alphapolis.co.jp/novel/977882250/678898246

 

Twitterに載せた短歌をまとめました。

初心者で全然わからないですが、作るのは楽しいです。

今ある9作全部こちらにも載せます。続けていきたいなぁ。

 

もう二度と目を覚まさない弟の枕の脇の友禅袴

いつの日か私も何者かになろう飛べない鳥も海を泳げる

南極の礼服紳士がご教示は寒いからこそ暖め合うこと

もし生きる意味が私に見えたならそれは私の形をしてる

湿ってる夏の夜風がリードする黄金(こがね)衣装の三日月タンゴ

ハッピーバースデーあなたに贈り物ろうそく1本東京タワー

一杯の麦茶に赤い陽が落ちて氷を溶かす8月3日

幸せに…言えるほど大人じゃなくて金参萬圓也の字歪む

飛び降りたかった橋の上にぽつりあの日の私が今も立ってる

【創作童話】竜はどこへ行ったのか

アルファポリスhttps://www.alphapolis.co.jp/novel/977882250/917422106

 

 むかしむかし、空には立派な竜が飛んでいた。全身は硬く光る青い鱗で覆われ、鉤爪は大きく尖り、澄んだ瞳は景色を溶かし込んだように碧く鋭く、どんな生き物も寄せ付けないほどに強かった。
 岩をも砕くツノや、火を噴く口や、トゲの生えた長い尻尾は竜の自慢だったが、いちばん気に入っていたのは大きな翼だった。竜が翼を広げて飛ぶと、山のひとつくらい、その影にすっぽりと覆われてしまうほどに大きかった。竜は大きな翼で雲を操り、雨を呼び、雷を鳴らすこともできた。地上の生き物たちは大空に羽ばたく王者を見つめて、雨の恵みに感謝した。いちばん大きな湖に住む竜は、皆に尊敬される誇り高い生き物であった。
 ある日のこと、竜が高く高く空を飛んでいると黄金よりも光り、太陽よりも輝く神様が言った。
「竜よ、お前は山よりも雲よりもさらに高く飛び、天国に近づきすぎる。鳥より高く飛ぶことを禁ずる。」
「そうか。仕方がないな。」
 あくる日から竜は鳥と同じ高さを飛ぶことにした。ところがどうだろう、鳥が1匹も空を飛んでいないのである。竜は水辺でさえずる小鳥に呼びかけた。
「小鳥よ、なぜお前は空を飛ばぬ。」
「竜さん…。僕のこんな小さな体では、竜さんと同じところを飛ぶことはできません。吹き飛ばされて、体がバラバラになってしまうでしょう。」
「だから誰も空を飛ばぬのか。」
「僕たちはあなた尊敬していますし、この地に雨を呼んでくださり感謝しています。ですが、一緒に飛ぶことだけは叶わないのです。」
「教えてくれて助かったぞ。ありがとう。」
「とんでもない。僕は竜さんが大好きなんです。」
小鳥は小さな胸を膨らませて嬉しそにそう言った。歌のように耳に心地よいさえずりであった。

 あくる日から竜はまた高く高く空を飛んだ。山よりも雲よりもさらに高くを。目を見張るほど美しい白い天使が、竜の姿を見て言った。
「竜よ、お前は天国に近づきすぎる。我らの父なる神に、低く飛ぶよう言われたはずではないか。不敬だぞ。」
「小鳥が怯え、誰も空を飛ばぬ。だから私は高く高くを飛ぶことに決めたのだ。」
「神の命令に背くとは。お父様!我らが神よ!どうかお聞き届けください!不敬の輩がおります!」
黄金よりも光り、太陽よりも輝く神様が雲の合間から現れ、あたりはまばゆい光りで包まれた。
「我が子よ、どうしたというのだ。」
「この者は神の命令に逆らい、天国の近くを高く高く飛んでおります。お父様のお力でこの者を空から追放してください。」
「竜よ、何か言いたいことはあるか。」
「私が低く飛ぶと、小鳥が怯え、誰も空を飛ばぬ。だから私は高く高く飛ぶことに決めたのだ。」
「そなたは私の命令ではなく、自身の決定に従うと言うのだな?」
「そうとも。弱い者をいじめるよりは、その方がずっといいと俺は思うからだ。」
白い美しい天使は顔を赤くして言った。
「なんと無礼な。お父様。早くこやつを天国の近くから追い払ってくださいまし。」
「天使というのは融通が効かないのだな。」
誇り高い竜は恐れず天使に言った。
「よかろう。それでは、竜よ、お前を空から追放する。」
こうして神様は竜から大きな大きな自慢の翼を奪ったのだ。そして天使は、神様に知られぬようにこっそりと、竜の手足を奪った。
「お前は地を這って神様を仰ぎなさい。」

 それからは、竜が雨を呼ばなくなり、雨は勝手気ままに降るようになった。操られなくなった雷は、小鳥たちが雨宿りをしていた木の上に落とされた。
 真っ黒な炭のようになってしまったぼろぼろの木の下に、小鳥たちは息絶えて落ちていた。その中に、竜に大好きだと言ってくれた小鳥がいたのだ。長く長く生きてきた竜は、その時初めて泣いた。小さな命を奪われたことが許せなかった。守る術を失ったことが悔しかった。小鳥の丸く澄んだ目を思い出し、誇らしげに胸を張った小さな小さな体を思い出し、大好きだと言ってくれた心地よいさえずりを思い出して、涙がつぎつぎと溢れた。すると、炭のように真っ黒だった木は竜の涙が伝ったところだけが、また青々と再生し始めた。根も幹も枝も葉も半分だけが生き返り、そこに黄金の林檎がなった。

「ああ、私が空を統べていた頃は、鳥たちはもっと自由であった。小さな者が無闇に命を奪われることもなかった。」
手足と羽を奪われた竜は、濡れた地の上をずるずると這い、叫んだ。
「おい、天使よ。白い天使よ、そこにいるか。」
目を見張るほど美しい白い天使が空高くから現れた。
「お前か。なんの用だ。」
「お前の父は神なのだろう。神は地上で小鳥がどうなっているのか知っているのか。」
「当たり前だ。神は全知全能。なんでもご存じであられる。」
「ではお前は知っているのか。地上で小鳥がどうなったのか。」
「そんなのは神がご存じであればいいこと。」
天使はふんと笑った。
「お前は何も知らぬのだな。幸せな奴だ。」
「なんだと。」
白い天使はまた真っ赤になっていたが、竜は構わずに言った。
「そこに半分が焼け落ちた大きな林檎の木があるだろう。黄金の林檎を食べるがよい。あれは知恵の実。お前にはそれでやっと何が起きたか分かるだろう。」
天使は憤慨して言われた通りに黄金の林檎をもぎ取り、口にした。瞬間、天使は木の周りに散らばる色とりどりの羽根を見た。小鳥たちが死んでしまったことも、それが竜の翼を奪ったからだということも、すぐに分かった。手足も翼も奪われた竜の見透かすような碧の目を見て、急に天使は恥ずかしくなった。
「私はなんと愚かだったんだろう。私は自分が恥ずかしい。」

 こうして羽を奪われた竜は、今は蛇と呼ばれて地を這っているのである。
 そして知恵の実を食べた天使は、神様から天国を追われたとも、自分から天国を去ったとも言われている。今は、ヒトと呼ばれている。

おしまい。

【読書感想】眼球譚

オーシュ卿(ジョルジュ・バタイユ)の著作『眼球譚』を読んだ感想を絵にすると…

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こうでした。(伝わらない)

 

バタイユの著作はちくま学芸文庫の『エロティシズム』を読んでいて、『眼球譚』で2作目なんですけど、文学作品は初めて読みました。

読み始めから「バタイユさん飛ばしてんなー」って感じでしたが、文庫本で見たことのない単語の羅列で凄まじかったです。

 

※以下【ネタバレ?】ありなのでお気をつけください。

 

確かバタイユが"セックスは絶頂において死を想起させる"といった旨の主張を『エロティシズム』でもしていたのですが、『眼球譚』においてもエロスと死(タナトス)というテーマが根底にあるように感じられました。

ただ、主人公が普通のセックスでは物足りないという設定のため、おそらく多くの人が想定する性行為とは少し違った描写が多々見られると思います。(これを中学生の時に読んだダ・ヴィンチ・恐山さん何者なんだ…)

特に多かったのは排尿行為ですが、排尿単体では多くの人にとってはエロティシズムを感じるのは難しいんじゃないかなって…私だけ??だったらごめんやけど(不安)

そしてその名の通り眼球への執着もあります。死、肉体の損壊、そして宗教とエロスなど…これらだけではないのですが、多くの謎は『眼球譚』後序を読むと解明されます。

バタイユの父親の目が盲目であったこと、身体に不自由があり排尿および排泄行為を幾度となく目の当たりにしていたこと、一時期ではあるものの教会に通い祈っていたこと、けれども自分の父親が《置き去りにされた》人間であること。これはすなわち神に見放されている人間であると言っているのだと解釈しました。故にバタイユ無神論者であるのだと。

バタイユは『眼球譚』で徹底的に教会で死もエロスもやらかす描写をしてるんですけど、キリスト教への深い理解があったればこそ、ここまで蹂躙できたんだなとも思うし、そこにある種の敬虔ささえ感じました。私はキリスト教徒ではないんですが、「これはダメじゃん…やめなよぉ…」って流石に思わざるを得なくて、逆に神妙な気持ちにさせられるというか。バタイユ先生の荒技です。

 

次は読みかけのバタイユ先生著『エロスの涙』を読みたいな!!

【創作物語】眩しかったから

アルファポリスhttps://www.alphapolis.co.jp/novel/977882250/970883510

 7月のとある日、2年4組の教室の窓枠には紐がくくりつけられ、その先端にササキフミカの死体が垂れ下がっていた。夏用の制服に乱れはなく、肌は陽に翳せば透けるほど白かった。この蒸し暑いのに、フミカからはなんの温度も感じられない。
 けたたましく鳴く蝉の声が耳にわんわんと反響して、まるでサイレンのようだ。そうか。救急車を呼ばなくてはならない。いや、こういう時は警察だろうか。窓の近くに転がっている蹴り飛ばされたであろう椅子をぼうっと眺めながら、コバヤシはそう考えた。

 ササキフミカという生徒は、成績が良くも悪くもなく、目立つような素行も見当たらず、顔立ちは不器量でも特別美人でもなかった。だが、年頃に似合わない影のある、伏し目がちな黒の瞳がコバヤシには気になって仕方がなかった。
「コバヤシ先生、これ。」
 ノートを手渡してフミカが踵を返すと、長い黒髪がさらりと揺れた。
 おい、とコバヤシの喉元まで出かかった言葉はかき消えた。別の生徒がフミカの名を呼んだからだ。
「次体育だよ。一緒に行こう。」
 2人は足早に去っていく。まだ4月だというのにいやに蒸し暑い日のことだった。

 コバヤシという男は、偏差値が高くも低くもない女子中学校で、日本史の教師をしていた。人気者でも嫌われ者でもなく、現状に不満もなかったが向上心もなかった。友人には「若い女の子ばっかりで羨ましいよ。」などと言われるが、年頃の女子高生たちを相手にするのは、面倒以外の何物でもなかった。恋人のルリには「若い子に目移りしないでよ?」なんて冗談まじりに言われている。その度にコバヤシは「10代なんて女ではなく子どもだろう」と答えていた。本心であった。
 近頃いやに引っかかるのはササキフミカのことだ。1年生の頃は特に印象に残らなかったのだが、このところ目を引くのである。何がとは言えないのだが、フミカの目を見ると腹の中がざわざわと蠕く。コバヤシは、今日はもうこのことは考えないようにしようと決めた。

「ただいま。」
 扉を開け、小さな声でフミカは言った。
「少し遅かったんじゃない?」
 耳がキンとするような声でササキの母キョウコが言った。
「部活でちょっと…。」
「部活?あんたちゃんと勉強しないと高校で困るわよ。」
 勉強もちゃんとしてる、と心の中で返事をしたが、口に出して言い返すことはなかった。
「塾に間に合わなくなっちゃうから、早くご飯食べちゃいなさい。」
 フミカは無言で食卓についた。「私が学生の頃は…」「あんたの友達のタカギさんはいいわよね…」とキョウコは一方的に話し続ける。娘が一言も発していないことに気付いていないかのようであった。

「行ってきます。」
 またしても小さな声でフミカは言った。
「しっかり勉強しなさいよ。」
 キョウコのキンとする声に追い立てられるように家を出た。
 キョウコは専業主婦であった。14になり手のかからなくなった娘にちょっかいを出す他に、ストレスの発散方法を知らないのだ。キョウコの居場所は家庭にのみあり、そこでの存在の大きさこそが、世界におけるキョウコの存在意義を決定付けるのである。
 フミカの幼い頃からキョウコはあれこれと躾をし、褒めることはほとんどなかった。こんなに愚かな子は見たことがないとでもいうように、ため息をついたり、なじったり、時に癇癪を起こしては怒鳴りつけた。フミカがキョウコの顔色を伺うようになると、それもまたキョウコの気に障った。
「自分で考えられないの?」「もっと利口な子がよかった。」
 そういった言葉に顔を歪ませる娘を見ると、少しだけ気が晴れるような気がするが、一方で、「私の言葉に嫌な顔をする可愛くない子」という怒りが更に募るのであった。

「ササキさん最近元気なくない?」
 フミカが顔をあげると、目の前の席に座っているニシヤマショウが振り返ってこちらを見ていた。
「え…」
「勉強してて寝られてないとか?テストも塾もで大変だよね。」
 フミカは口を開いたが言葉が出てこなかった。
「今日途中まで一緒に帰ろう。もう遅いし。」
 ニシヤマは嫌味なところのない普通の少年であるが、フミカにとってそんなことは重要ではなかった。断る理由を見つけられず、無言で一緒に塾を出た。
「あのさ、気付いてるかもしれないけど俺、ササキさんのこと好きなんだ。付き合って欲しい。」
 ニシヤマは照れてこそいたが、フミカの目を見てハッキリ言ってのけた。フミカはその場を走り去ろうとしたが動けず、喉に込み上げてきたものをかがみ込んで吐き出した。息も絶え絶えである。目には涙が浮かんでいた。
「えっ、大丈夫…。」
 反射的に支えようとしたニシヤマの腕をフミカは払いのけた。そして頭を抱えて金切り声をあげ、泣きじゃくり始めた。
「ごめん……。」
 やっとのことでそう言うと、ニシヤマは走り去っていった。

 5月、2年4組の生徒全員からフミカは無視されるようになっていた。クラスの中心人物であるツジアヤノがフミカを気に入らないと言い出したことから始まったいじめだったが、フミカは泣くことも怒ることもなく、毎日学校に来ていた。両親にも担任にも相談する気にもなれず、クラスメイトを心底軽蔑しながらただ自分の席に座っていた。
 フミカには、なぜアヤノが自分を嫌うのか分かっていた。アヤノがニシヤマショウに好意を抱いていたからだ。同じ塾に通うアヤノは、フミカとニシヤマのやりとりを目撃していた。自分を選ばないニシヤマではなくフミカを憎み、人の好意を踏みにじった嫌な女だと正当化した。
 フミカと一緒にいた友達もあっという間に敵になった。フミカにはそれすらも最早問題ではなかったが。

 フミカの周りに誰もいなくなったことにコバヤシが気が付いたのは6月のことであった。
「ササキ、お前大丈夫なのか。」
フミカは何の感情も浮かんでいない目でこちらを見上げた。
「最近、元気ないだろう。悩みとかあるなら聞くぞ。」
コバヤシらしくない言葉だった。勇気を出して言った割には拍子抜けするくらい空虚で無意味な言葉だ。俺、教師向いてないかもな、と内心で思った。
「大丈夫です。」
フミカは薄い唇の両端をするりとあげ、笑ってみせた。自分の無力さとフミカのこれからを思うとコバヤシはゾッとした。

 ササキの父タダシは年相応に老けていて、サラリーマンとして妻を専業主婦にしておけるだけの年収を手にしていた。中肉中背で眼鏡をかけていて、スーツは高価でも安物でもない。タダシの人生において特筆すべき点はただ一つ、娘のフミカに劣情を抱いたことである。
 幼い頃から母親に冷たく当たられる娘を見ると可哀想であったし、それでもいい子であろうとするフミカの姿はいじらしくもあった。フミカが生まれる前は、キョウコも明るくて美しかったのにと思わずにはいられなかった。見た目だけは、フミカがキョウコに似て良かったと思っていた。どんどんと大人になる娘。どんどんと衰えていく妻。タダシは妻を醜いとさえ思っていた。自然とフミカの方に味方をし、フミカの方ばかりを見つめるようになった。
 キョウコにはそれが分かっていた。だからこそ、フミカが気に障るのであった。自分というものを差し置いて、娘が夫に選ばれるなど許せなかった。老いていくことも、女として娘に負けることも、夫の視界に入れないことも、何もかもが許せなかった。
 4月の上旬のこと、会社の帰りに酒を飲んで帰ったタダシは、寝ていたフミカに口付けた。着ていた服をまさぐると、小さい頃にはなかった膨らみを感じた。タダシは地獄に堕ちることに決めた。酔っていたし、正常な判断ができなかったのだと、あなたは思うかもしれない。だが、そうではない。タダシは明確に自分の行為が卑劣であることを知っていた。ただ、フミカも共に地獄の苦しみを味わうとは考えていなかった。この男は、キョウコの感情もフミカの感情も、眼中になかった。最初から「そう」なのである。こいつは化け物だった。
 目を覚ましたフミカは恐怖のあまり声を出せなかった。拒絶していいのかもわからなかった。声を出したらお母さんにバレちゃう、真っ先にそう思った。一言も発さなかった代わりに、涙は滝のように流れた。とめどない涙がしとどに枕を濡らしていた。
 ことが済むとフラフラとタダシは出て行った。この日からフミカの地獄は始まった。

 7月のあの日、教室の掃除をしていたのはフミカ1人だけだった。ふと窓の外を見ると、校門にニシヤマショウとツジアヤノが立っていた。2人は手を繋いで互いを見つめ合っている。その瞬間、フミカは死のうと決めた。眩しかったから。たとえどんなに足掻いても、一生自分はあの陽の光の中を誰かと手を繋いで歩けないのだと気付かされたからだった。
 この苦しみも、悲しみも、背負っていたところで何の意味があるというのだ。父に蹂躙され、母に邪険にされ、友人に排斥され、これから生きるに値する希望、それがフミカにはなかった。
 自殺をすると地獄に堕ちると言った人間がいたっけ。私が地獄に堕ちたら、そいつも、あいつも、あいつも、あいつも、みんなみんな地獄に堕としてやりたい。地獄がここよりそんなに悪い場所とは思えないけれど。もしもっと悪い場所があるなら、私がそこに絶対に引き摺り込んでやるんだ。初めて楽しみができた気がして、笑いながら椅子の上に立った。
 バイバイ。また会おうね。